偏微分とは何か?~偏微分と普通の微分の違い~
理系の学部に進んだ学生にまず立ちはだかるのは、熱力学です。
エントロピーやカルノーの原理などいろいろと難所はありますが、その中でも最初に出てくる門番は偏微分でしょう。
さも当然のような顔をして出てくるこの記号
\begin{align*}
\frac{\partial f}{\partial x}
\end{align*}
先生に聞いても、「微分は高校時代にやったでしょ?まあ、多変数関数を一つの変数で微分しただけだよ」なんてはぐらかされて「じゃあ、なんで普通の微分の記号で書かないんだろう」ともやもやを残したままの学生が数多くいらっしゃるのではないでしょうか……かくいう僕もそうでした。
今回はこの偏微分に関して、みっちり解説していこうと思います!
目次
微分の定義
\begin{align*}
\frac{df}{d x} =\lim _ {h\rightarrow 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}
\end{align*}
でした。これはを負から0に近づけても、正から近づけても行き着く値は同じで(極限が存在して)それをの微分と呼ぶということでした。
例えばだとすると、です。
ざっくりいうと「微分というのは変数をとても小さく変化させるととても小さく関数が変化するけど、そのときの変化の比を表している」ということになります。微分はイメージさえつかんでいれば普通の微分は簡単ですね!
偏微分とは
それではさっそく偏微分を見てみましょう。
さっきの例では定数だったのですが、これも変数だったとしましょう。
しかし偏微分であればただただ微分する変数以外は定数とみなして微分すればいいということになります。つまり、ということになります。
ほぅ、やっぱり記号が変わっただけじゃないか…と思うかもしれません。
しかし、偏微分、特に熱力学の偏微分で苦労したことがある人はここで引っかかると思います。
「がの変数だったら…?」
ここが、偏微分と普通の微分の違いが出る重要なポイントです。例えば、だとするとどうでしょうか?この場合普通の微分だと
\begin{align*}
\frac{d}{dx}f=&\frac{d}{dx}(ax ^2+x+1)\\
=&\frac{d}{dx}\{(x^3+b+4)x ^2+x+1\}\\
=&\frac{d}{dx}\{x^5+(b+4)x^2+x+1\}\\
=&5x^4+(2b+8)x+1
\end{align*}
となります。しかし偏微分の場合は
\begin{align*}
\left(\frac{\partial f}{\partial x}\right)_a=2ax+1
\end{align*}
となります。にを代入するとわかると思いますが偏微分と普通の微分は全然違います。ここでセンスのある人は疑問に思うでしょう。微分はそもそも微分というのは、変数をとても小さく変化させるととても小さく関数が変化するけどそのときの変化の比、つまりの微小変化に対するの微小変化の比だったはずです。がの関数だったにもかかわらず、の変化によるの変化を無視して微分といえるのでしょうか…?
変数の固定
勘のいい人はもう気付いているかもしれませんが関数の中に実は変数が入っています。つまり、を変化させたにもかかわらず、を固定するということは、すなわちを変化させたときが変わらないようにを変化させるということなのです。もしがなどで完全に決まっていたとするとになってしまい、を動かすにもかかわらず、を動かさないということが不可能になってしまいます。図(プルプル錯視)にするとこんな感じです。
上の図は縦軸と横軸をそれぞれととし、を高さに取ったものです。オレンジのラインがで固定したもので、このオレンジのラインに沿ってを動かした時のの変化量の割合がです。たしかにはの関数かもしれないけど、その中にはを動かしても
を動かさないでおけるゆとり(という変数)があるので思い切って定数としてみてしまう!というのが偏微分なのです。
逆にと固定してを(赤のライン)としてしまったときのが緑のラインになります。こういった場合にはそもそも1変数関数なので
は定義できません。ここで帳尻をあわせる変数がないのでを固定するとは点になってしまいます。
いかがだったでしょうか?偏微分を考えるときはその微分する変数以外の変数が固定されているのがすごく大事なのがわかったと思います!
熱力学はすべての熱力学的物理量は2変数であらわせるというとっても強い仮定があるので、何を固定していて何が帳尻合わせのために動いているかを考えると熱力学が楽しくなってきます!